十宝山の御神鏡物語(とだからやまのごしんきょうものがたり)
彌彦大神が越後地方開拓経営の大任を帯びられて多数の部下を引率し、はるばると大和の国より若狭湾に出て、ここから天の鳥船に乗船し、日本海を北上して米水ヶ浦(寺泊町野積浜)に上陸されたのは、神武天皇御即位後4年目の年でありました。
大神様はこの時、大和朝廷からたくさんの天璽瑞宝(てんじずいほう 十種の神宝)を持参されました。
さて、越後地方開拓の大業がようやく一段落した時、この持参された御神宝類を十宝山(とだからやま)の頂上に埋納せんとお考えになり、その作業を重臣の一人であった稚彦命(わかひこのみこと)に命ぜられました。
命を受けた稚彦命は、さっそく長男の小稚彦(こわかひこ)を始め、家臣一同と共に十宝山の山頂に登り、幾日もかかって大切な埋納作業を行いました。さて、いよいよ作業も終わりに近づいたある夜、たくさんの宝物類の中でも一番大切な御神鏡が紛失している事が判明しました。
さあ大変!
驚いた稚彦命を始め、家臣一同必死になってあちこち手分けをして探し廻りましたが、御神鏡は一向に発見できません。
困り果てた稚彦命は、この上は一死をもって大神様にお詫びせんと覚悟を定め、急ぎ下山して恐る恐る御神鏡紛失の事を申し述べました。
彌彦大神は静に論して曰く、
「死んで詫びることは誠に簡単である。しかし、死んで詫びたからといって、大切な御神鏡が発見されるわけではない。殊に、永年私といっしょに越後地方開拓のために苦労をともにした家臣である。よって、本日より暇を与えるから、時間を惜しまず、十分に念を入れて御神鏡の行方を探し出すようにせよ。」
と命じられ、探索の旅にあたって、一振りの神剣を授けられました。
恐れかしこまった稚彦命は、さっそくその足で長男の小稚彦一人だけを供に連れて、いよいよ御神鏡探しの長い旅路に出発しました。
それから十数年が経ちました。御神鏡探索の旅は歳月のみ空しく過ぎ去り、一向に捜し求める事もできないまま、稚彦命はすっかり寄る年波に白髪と変わりました。
ある晩秋の一日、北辺のとある海浜にたどり着いたとき、疲れと悲しみのあまり、ついに一軒の漁師の家で病の床についてしまいました。今は立派に成長してたくましい若者に育った長男の小稚彦を枕辺に呼び寄せ、稚彦命は涙ながらに言いました。
「私はこの寂しい浜辺で志も空しく死んでゆくが、お前はこの父に代わってあくまでも御神鏡を探し出し、弥彦でお待ちになっている大神様にお届けし、父の不忠をお詫びするとともに、この父の分までお仕えして忠勤を励めよ。」
小稚彦は詮方なく、病床の父の看病を漁師夫妻にくれぐれも頼み、父が出発の際大神より授けられた神剣を背に、再び一人で御神鏡探しの旅に出発しました。
さて、その年も過ぎて、再び春がめぐってきたある夕暮れ時、小稚彦は大きな山の麓にある小さな小屋の軒先にたどりつきましたが、疲労の余り、そのままうとうとと眠り込んでしまいました。
深夜、ふと気がつくと、小稚彦の枕元に上品な白髪の老夫婦が座ってさめざめと泣いているではありませんか。
驚いた小稚彦は、
「どうした訳か、なぜ二人してここで泣いているのか。」
と尋ねると、
「何を隠しましょう。私ども老夫婦は、実は永年この先の山の頂上に棲む白鳥であります。あなたがお父さんといっしょに永年探し求めています彌彦大神様の御神鏡の行方を知っている者です。お探しになっている御神鏡は、この山奥深くにひそんでいる大鷲が持っています。
実はこの大鷲は永年にわたって猛威をふるい、私たちのかわいい子どもや孫を年々喰い殺してしまい、本当に困っています。彌彦大神様の大事な御神鏡も、実はこの大鷲が十宝山頂から盗み取って来たのです。
しかし、今日、あなたがここへ来られたのは決して偶然ではありません。彌彦大神様と、病の床であなたの手柄をお待ちになっているお父さんのお導きと思います。あなたの忠臣孝子のお心には必ずや天の祐けがありましょう。
どうぞ、この大鷲を征伐して、御神鏡を取り戻すとともに、永年苦しめられてきた私どもの難儀をお救いください。」
と、涙ながらに語り終わるや、すーっと姿が消えてしまいました。
ハッ!と目覚めた小稚彦は、
「さては今のは夢であったか!」
と驚いてあたりを見渡すと、既に白々と夜も明け始め、上空には二羽の大白鳥があたかも道案内せんとする様子で、ぐるぐる輪を描いて飛んでいる姿が見えるではありませんか。
「これこそ正夢。」
と、喜び勇んで小稚彦はすぐさま身支度も厳重に、かの白鳥の飛んでゆく跡を追いました。そして、山奥深く踏み入り、やがて山頂の大岩に止まってランランと目を光らせている大鷲を発見しました。よく見ると、まさしくかたわらの巣の中には、永年探し求めた御神鏡が見えるではありませんか。勇躍した小稚彦はすぐさま彌彦大神より授けられた件の神剣を振って大鷲に立ち向かいました。
力戦奮闘することしばし、ついに神剣を振りかざして見事大鷲を退治し、ここにめでたく御神鏡を取り戻すことができました。
喜びの涙にくれる白鳥に見送られながら、病の床にある父のもとへ夜を日についで急いだ小稚彦は、今や、まさに息もたえだえの稚彦命の枕元へようやく帰り着きました。さっそく、件の御神鏡を取り出したところ、その霊気によりたちまち稚彦命の病気も全快しました。急いで弥彦の宮居へ立ち帰って、この様を報告せんとしたところ、彌彦大神はこの現世を神去りました後でありました。
父子は、永年辛苦の結果、ようやく取り戻すことができた御神鏡を大神の御廟前に供え、天を仰ぎ、地に伏して嘆き悲しみましたが、今やなすすべなく、彌彦大神の命のまにまに再び十宝山頂に深く御神鏡を埋納し、以後、長くそれが守護にあたったと伝わります。
十宝山頂、十種の神宝埋納にちなむ伝説です。
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