⑨発達障害
編集指導・・・柳本 利夫氏(新潟市西区中権寺 やぎもと小児科院長)
編集指導・・・長田 美智留氏(弥彦村教育委員会スクールソーシャルワーカー)
<発達障害とは>

環境とのミスマッチから学びや生活に困難が生じる、生まれつきの脳機能の障害です。脳内でおきている情報処理の仕方が多くの人とちがっているのが特徴といえます。
●環境のミスマッチとは?…『社会モデル』という考え方
「困ったときには障害のある人が自分で解決するべき」という考え方を『個人モデル』と呼び、「社会が『障壁』をつくっているから困っている人がいるのだ!だから社会全体でそれを解消していこう」という考え方を『社会モデル』と呼びます。
<発達障害は『個性』か?『障害』か?>

例えば発達障害の人の中には字を書くことが苦手なタイプの人がいます。でも、授業中やテストのときにタイピングを使うことができたら、その人の特性は『障害』ではなく学び方の『個性』と呼ぶことができるでしょう。
ですが、残念ながら社会にはまだまだ少数派の個性』に対する無理解の壁がそこかしこにあり、自分の力ではどうすることもできない特性が原因で、困ったり辛い思いをしている人がたくさんいます。
特性を『障害』と表現すると、その人がもつ困り感やしんどさに気づいてもらえる可能性が高くなります。逆に言えば、特性を『個性』と呼ぶことによって「人それぞれだよね」と片付けられてしまい、配慮を受けづらくなるリスクが生じるでしょう。
診断自体は日本では医師しかできません。ですが、診断名があったとしても日常生活の中で発揮される特性を『個性』ととらえるのか、『障害』ととらえるのかはその人自身に決める権利があります。その特性がプラスに働く環境にいられるのであれば、『個性』と呼びましょう。もし、マイナスに働く環境にいるのであれば『障害』と表現してその困り感を周りの人に伝えましょう。そうすると、周囲の人に理解してもらうための手助けとなるでしょう。
ただし、その人のすべての特性が常に・最大限に発揮される環境はなかなかありません。その人にとって力を発揮しにくい環境が、誰かにとっては最高の環境だという場合もあります。その人が積極的に参加したいと思える場所を探し、そこで関わる人達と一緒に努力しながら環境の向上を目指し、どうしてもフィットしない部分は、周囲に相談しながら解決方法を探しましょう。
<発達障害の種類と特徴>
「発達障害」は、いくつかタイプに分類することができます。
① ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、広汎性発達障害)
最新の研究では、ASDは約100人に1人いると報告されています。また、男性の方が多く、女性よりも約4倍の発生頻度といわれています。
ア コミュニケーションの特異性:コミュニケーションのとり方や人との距離感について「ちょうどよい具合」の感覚が人と異なります。
・人とのお喋りが大好きだったり、逆に極端に静かだったりする
・他人に共感しすぎたり、逆に興味関心が極端に低かったりする
・相手の目を凝視したり、逆に視線がまったくあわなかったりする
イ 行動の特異性
・おもちゃを一列に並べる ・ルーティンを好む ・活動の切り替えが辛い
・CMのフレーズなどを繰り返し話す ・道順や予定の変更などが苦手
・規律やルールを厳守し、場合によっては柔軟性に欠ける
ウ 感覚の特異性:視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚等、様々な感覚が敏感あるいは鈍感です。
・騒がしい場所が極端に苦手 ・心身の痛みや不調に対して過敏だったり鈍感だったり
・特定の匂いが苦手 ・食べ物の好き嫌いが激しい
・手触りにこだわりがあり、特定の素材の洋服しか着られない
・水に触れるのが好きだったり、極端に苦手だったり
② ADHD(注意欠如多動性障害)
ADHDは、発達障害の一種で、特性として「不注意」と「多動性/衝動性」の特異性が上げられます。子どもで20人に1人程度にみられます。大人になると、傾向は変わらないものの多動性などの症状が目立たなくなって、診断の枠に入らない状態になる人もいます。
以前は男性の方が女性よりも何倍も多いと言われていましたが、最近の報告では男女比は同程度に近づいてきています。

ア 不注意の特異性
・おおらかな分、細かいことを注意するのが苦手でケアレスミスをしやすい
・「やるべきこと」をうっかり忘れがちだが、言われたら思い出せる
・集中は持続しづらいが、一方でゆっくりマイペースに活動することは好き
・整理整頓が苦手、物は失くしたり忘れることが多い
イ 多動性/衝動性
・手足をもじもじそわそわする
・ずっと座っているより動いていることの方が好き
・積極的でしゃべりだすと止まらない
・「静かに・大人しい」よりも「大胆に・エネルギッシュに」
③ LD(学習障害)
「日常生活はスムーズに送れているのに、なぜか勉強だけはどんなに頑張っても難しい…」という人はLDの可能性があります。決して勉強のできない障害でなく、大多数の人とは違う学び方がフィットしやすい人のことを指します。学び方は人によって異なるため、きちんと検査をして自分の得意・不得意を理解しながら対応していくことが大切です。
2012年の日本で『小学生の4.5%が学習面で著しい困難を示している』という調査結果がでました。「学習面で著しい困難」=「LDである」とはなりませんが、学習に関して特別な支援を必要としている人は決して少なくはありません。
以下にLDの人の困り感を上げます。
ア「読み」の苦手さ
・読むことがすごくゆっくり ・スムーズに読めず、つっかえたり読み飛ばしたりする
・読んで理解できず頭に入らない ・日本語は読めるが英語を読むことが極端に辛い

イ「書き」の苦手さ
・丁寧に書いても読みづらい字になる ・書き間違いが多い
・漢字を書くのがおっくう ・文法を間違える
・英単語のスペルが覚えられない
ウ「計算」の苦手さ
・数字の大小がわからない
・暗算が苦手で計算に時間がかかる
・筆算も嫌い ・分数などの概念の理解が難しい
<発達障害への対応>
① ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、広汎性発達障害)
生まれながらの障害で、現代の医学では根本的な原因を治療することはできませんが、必要なサポートを求めながら特性を個性や強みに変え、困り感を軽減させていくことは可能です。そのための心得を4つ紹介します。

ASDの人にとって”理解しやすい情報の形”というものがあります。混乱したときには、周囲の人に協力をしてもらいながら情報をインプットしやすい形に変換します。
ア 視覚化
・言葉での質問に答えるのは苦手なので、メモに書いて渡してもらうようにする
・授業の話を聞いて理解するのは難しいので、教科書を使って予習をしてから授業に臨む
イ 具体的
・「きちんとする」「やさしい色」というような曖昧な表現が理解しづらいので、「具体的にこうすればいい」「例えばこうする」と指示を出す。
ウ 肯定的
・「ふざけない」といったような「~しない」という禁止表現では何を求められているかわからない。「具体的にこうする」と指示を出す。
※なお、常に支持を出すのでなく、分からない場合に「具体的にどうすればよいか教えてください」と質問できるようにする。
エ 段階的
・「1年後の受験に向けて準備する」だと難しいので、「中間テストで○点とる」「夏休みの課題をすべて提出する」というように、ゴールまでの中間目標を設定する。
・一度にたくさんの指示をされて混乱することがある。指示は一つずつ出すようにする。

② ADHD(注意欠如多動性障害)
ADHDの人の不注意は頑張りが足りないのではなく、頭の中の細胞たちの動きによって起こっています。つまり、努力だけでは解決ができません。
ア 「不注意/衝動性を治す」のではなく、「不注意が起こっても大丈夫!」な状況を作る
・忘れっぽい人は、リマインダー(利用者に予定を伝える)つきカレンダーアプリを使う。
・スケジュールを組むときには、自分で思っている以上の余裕をもたせる。
・忘れ物をしても良いように、いつも行く場所には必要なものの予備を置く。(学校に筆記用具を一式置いておく など)
・宿題はできるだけ学校にいる間に終わらせてしまう。
・ぼーっとしたり、気づかないときには声をかけてほしいことを周囲の人に伝えておく。
・助けてもらったときや迷惑をかけたときに、お礼と謝罪ができるように練習しておく。
イ 多動性・衝動性をうまく活用し、コントロールしていくための工夫
・エネルギーが必要な活動に積極的に参加する
・集中したい活動の前には身体を動かしてエネルギーを発散させておく
・衝動を抑えたいのに抑えられないときにどうするか決めておく(別室に移動するなど)
・怒りやイライラをコントロールするためのトレーニングを受ける
・医師に相談して薬を飲む
ウ 自分のことが説明できる
自分自身の感覚はその人だけのものであり、他の人がすべてを理解することはできません。特にADHDの人特有の行動は、発達障害でない人にとって、なかなか理解がしづらい部分があります。自分はどんなことが好きで、安心できるのか。どんなことが苦手で、どんな配慮をしてもらえると助かるのか。説明できるように練習をしたり、説明のためのシートを用意できるとよいでしょう。
エ リラックスできること・楽しめることを見つける
ADHDの人は、疲れやすかったり、休憩することが苦手だったりする人が多い。そこで、上手にリラックスできる方法を見つけることが大切です。
・どうしようもなくイライラして、パニックを起こしそうになったときには、人のいない場所に移動する
・スポーツをしてエネルギーを発散する
③ LD(学習障害)
ア「見て理解する力」のちがい
人は、情報の8割を視覚から得ています。そして、LDの人の中にはこの「見て理解する力」が他の人と違うことがあります。例えば、目玉の運動能力(衝動性眼球運動)が弱い人は、視線をジャンプさせることが苦手です。そうすると、教科書を一行ずつ順番に読むことが難しくなるため、音読が苦手になる可能性があります。
その他にも見ているものの「形を理解する力(形態知覚)」や「位置や方向などを把握する力(空間知覚)」といった力に弱さがあると、文字の読み書きや、記号・地図・グラフなどの意味を理解して記憶することが難しくなります。
「読むのや書くのが苦手だったら勉強なんかできないよ!」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。IT技術のおかげでとても便利になりました。例えば教科書を読み上げてくれるアプリや、文字が書けなくてもタブレットや音声入力を使って表現ができる時代です。便利ツールを使って、その人にフィットした『最先端の学び方』を探しましょう。
イ「記憶の力」のちがい
ワーキングメモリーというのは、「何かを覚えておきながら別のことを考えても、覚えていた内容を忘れない能力」のことです。例えば、「100円のリンゴを3個と、50円のみかんを4個買ったら合計いくら?」という問題をだされたとします。まず100×3の計算をし、その答え(300円)を覚えておきながら、次に50×4=200をして、300と200を足して…というように、途中ででてきた答えや、次の計算に使う数字を覚えておくためには、このワーキングメモリーという能力が必要となります。
このワーキングメモリーの容量が大きくないタイプの人は、聞いたことをノートに書くことや計算が難しく、効率よく勉強することが苦手になります。いちいち紙に書きだして、覚えておく量を極力少なくする、というのもひとつの方法です。書くことに苦手さがある場合は、板書を写すときはタイピングを使ったり、カメラを使う方法もあります。計算については電卓や計算アプリの活用もできます。
ウ「協調運動」のちがい
協調運動とは、丁度いい強さや方法で、身体を動かす能力のことをいいます。この協調運動は『粗大運動』と『微細運動』に別れます。

粗大運動に苦手さがあると、姿勢を保つことが難しくなり、授業中長時間座ることが大きなストレスになり、学習への集中がしづらくなります。微細運動に苦手さがあると、目と手が協力しながら動くことが難しくなるため、文字が崩れる・ゆがんだりはみ出たりする、力が入りすぎて疲れやすくなるというように「書くこと」の困難に繋がります。
世界には便利なグッズがたくさんあります。書くことの苦手さは上のイで紹介したようなツールが使えます。また、姿勢を保つためには専用のクッションなどがあります。その人にあったものをうまく活用して、苦手を補いながら本来の力を引き出すことができます。
エ その人にあった学び方を知るためのアセスメントを受けよう
LDの人が勉強が苦手なのは努力が足りないのではなく、その人にあっていない学習方法が原因で起こっています。つまり、努力だけでは解決ができません。
例えば同じ「文字を書くことが苦手」でも、見ることに苦手さがあるのか、運動に苦手さがあるのかによって対処方法が変わります。どんな方法がその人にピッタリ合うのかは、専門家からの検査を受けてみることをおすすめします。

アセスメントはクリニックや支援センターなどで受けることができます。まずはかかりつけの医師に相談をしましょう。
オ 自分のことが説明できる
自分自身の感覚はその人だけのものであり、他の人がすべてを理解することはできません。特にLDの人特有の情報処理の能力は、発達障害でない人には、なかなか理解がしづらい部分があります。
特に、特性に合わせて苦手を補うためのツールを使うことに抵抗感を覚える人は、まだまだたくさんいます。ですが、苦手なことを便利な道具をつかって本来の力を発揮するということは、とても頭のいいやり方です。人には学ぶ権利があって、そのために必要な工夫をすることを反対することは誰にもできません。そのため、まずは、その人自身の特性と、どんな配慮が必要なのかを説明できるように練習をしたり、説明のためのシートを用意できるとよいでしょう。
<発達障害に気づく>
① 乳幼児健診は社会性の発達を確認するチャンス
発達障害には、原因や行動特性の異なる障害が複数ふくまれていますが、発達障害者支援法で定義されている「発達障害」は、これまで必要な支援が届きにくかった広汎性発達障害(PDD)、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などを意味しています。
その中で、1歳6ヶ月や3歳での乳幼児健診の場を早期発見に活用しやすいのは、広汎性発達障害です。ことばを話し始めるまでの社会性の土台は0歳代から築かれるので、それを丁寧にみていくことで、1歳6ヶ月から2歳までにはいくつかの社会性の発達指標を手がかりに、対人面やコミュニケーションが順調に発達しているか、確認することが可能です。
年少児の多くは落ち着きがないので、ADHDかどうかを鑑別するにはまだ早いでしょう。また、読み書きなどの高次な機能について、幼児で評価することは困難です。ADHDや学習障害の早期兆候(徴候)についてはまだよくわかっていませんが、自閉症スペクトラムに合併することも多く、合併する問題が多ければそれだけ支援ニーズは高くなるので、ケースバイケースで総合的に判断することが必要です。
② 乳幼児健診の場を活用しましょう
子どもが幼いうちは、初めての子育てにとまどう親も多く、どこに相談したらよいのかわからないこともあります。ですから、子どもの発達をいろいろな角度から確認できる乳幼児健診の場はとても貴重な機会です。
乳幼児健診の場には、発達障害の早期発見とそれに続く早期支援のためのいくつかの条件がそろっています。たとえば、親と専門職が顔を合わせて相談できること、保健師、小児科医、言語聴覚士、臨床心理技術者(臨床心理士、臨床発達心理士など)、地域によっては小児神経専門医、児童精神科医などの多職種のチームワークが成り立つ場であること、親がわが子を少し客観的に見つめ、乳幼児の心の発達に関する一般的な知識を学べる場であること、などが挙げられます。長い目でみて、幼稚園や保育所、そして学校への橋渡しもふくめて、地域でのサポートのネットワークを提供する場になるのです。
③ 1歳6ヶ月健診での気づき
通常は、1歳6ヶ月までに対人関係の基礎である社会性やコミュニケーションの土台が芽生えてきます。対人関係の性質は、1対1の2項関係から、ものを介した3項関係へと広がってきます。大人と一緒におもちゃで遊ぶことができるようになると、遊びを通じて、ことばや物の意味についてたくさんのことを学びます。それから、コミュニケーションの強力な道具としてことばを使えるようになっていきます。
このように、1歳6ヶ月は、コミュニケーションの性質や遊びの性質、対人関係など、子どもの発達を確認するのにふさわしいタイミングなのです。幼児の社会性の発達に関係する具体的なチェックポイントは、次に挙げる社会性にかかわる行動です。
ア アイコンタクト、呼名反応
イ 模倣:大人の動作を真似る
ウ 注意喚起:親の注意を自分にひきつける
エ 共同注意:親の指差しを目で追う
自分の興味あるものを指さしで親に伝える
自分の興味あるものを親のところにもってきて見せる
親の視線を目で追う
オ みたて遊びが増える一方で、感覚遊びが少しずつ減っていく
カ 社会的参照:新しい場面で不安なときには、親の顔を見て確認する
個人差がありますが、この順序で社会的行動が獲得されてゆきます。1歳6ヶ月を迎えるころには、ほとんどの子どもでこれらの行動が日常的にみられるようになります。これらの重要な社会的な行動が日常的にみられない子どもは、広汎性発達障害に限らず、社会性やコミュニケーションの発達に弱さをもつ傾向があります。

④ 3歳児健診での気づき
3歳児健診では、親から会話の様子、特定のものへの強いこだわりの有無、注意・集中、多動性の有無などについて聞き取ります。同時に、子どもに対しては、名前や年齢などの簡単な質問に対する応答、大小や長短、色などの認知発達の確認、簡便な発達検査などが行われていることが多く、また、健診会場での他児とのかかわり、あるいは親子の様子を観察することもあります。3歳児健診では、精神遅滞、広汎性発達障害などの発見を視野に入れます。
⑤ そのほかの母子保健サービスでの気づき
歯科健診や予防接種など、一連の母子保健サービスの機会を通して、発達の遅れや偏りが見つかることもあります。また、育児困難や育児不安を訴える母親からの相談・支援経過の中で、子どもが発達上の問題をもつこと(つまり、母親にとって育てにくい子どもであること)に気づかれる場合もあります。このほか、弥彦村では、療育の専門機関と連携し、保育園で園児の観察、保護者との相談、療育施設の紹介を行っています。
【参照】
発達障害のある小中高生向け 放課後等デイサービス(https://www.teensmoon.com/pdd/definition/)
発達障害情報・支援センター 健診での気づき(www.rehab.go.jp/ddis/発達障害に気づく/乳幼児健診での気づきと対応%EF%BC%88支援者向け%EF%BC%89/健診での気づき/)
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